Fictionality

フィクションの特徴とはなんだろうか? 何がフィクションとノンフィクションを分けるだろうか? その答えは当然いくつかの観点から考えられるが、この論文では用いられている単語からフィクションのフィクション性を計量している。

単語を様々なカテゴリに分けてくれるLWICというソフトを用いて、フィクションとノンフィクションの単語を調べる。

すると、200年間の長いスパンで、フィクションをノンフィクションから識別する語彙的特徴はかなり一貫していて、かなりの精度で識別できる。

つまり、多くのフィクションは共通のノンフィクションとは異なる語彙的特徴を持っていると言える。

フィクションをノンフィクションから区別する特徴として、感嘆符や”you”や”I”や引用など、

家族や家、身体に関係する語、知覚動詞などがある

フィクションの中でも小説固有の特徴を探るために、非小説フィクション(叙事詩や古典や童話など)と小説を比較してみる。

そうするとフィクションと非フィクションの差異よりは識別可能性は下がるのだが、小説とその他のフィクションの語彙に違いはある。

小説とその他のフィクションを区別する特徴として、動詞の多さと多様な時制がある。他に、否定や不一致や洞察などの認知的カテゴリ。つまり、小説は疑いやためらい、条件や不可能性、不確実性などの、世界に対する距離を取るような関係を特徴として持つ。

加えて、知覚動詞や、”admit” や”imagine”などの精神活動を表す語も特徴であり、これらは小説の反省性を表す。

一言でいうと、小説には現象学的(phenomenological)な傾向がある。

世界そのものではなく、人間の世界に対する出会いや感じ方を重視することが小説を特徴づけている。これは古典的フィクションにないものである。

 

単語の階層的関係などを含んだ概念辞書であるWordnetを用いて、単語がテクスト内の別の単語の上位語である割合を調べることによって、どの程度テクストが特定的(specific)であり、より具体的に世界を描いているかを測れる。

また、テクスト中にどの程度多くの物理的実体を表す単語が現れているかを調べる。

これらの計測の結果、小説の具体性が、19世紀の間に実際に変化していることがわかる。

19世紀の前半において、古典的なフィクションと比較した場合、小説は抽象化の度合いが大きいが、この違いは19世紀の後半までに消える。

一方、特定性ということで言うと、19世紀前半は他のフィクションと同じだが、19世紀後半になるとやや小説のほうが特定的になる

イアン・ワットの議論では小説は初期から具体的だということになっているが、このデータでは異なっていて、具体的になったのは少し時間が経った後である。その前段階に位置する抽象的な小説も歴史的に重要である。

 

フィクションとは何か?

小説の他のフィクションとは異なる特徴とは何か?

という大問題に挑戦する意欲的論文である。

著者であるAndrew Piperの論文は他のものも確かな文学的教養とそれを統計分析にうまく結びつける手腕が(ここでは触れていないが)素晴らしい。