Canon/Archive. Large-scale Dynamics in the Literary Field

 今日も今日とてパンフレット11。

この論文ではまず、文学史的に高い評価を与えられた正典(canon)と、そうではない作品=アーカイブ(archive)の比較を行っている。正典に入る作品は、複数の作品リストを照らし合わせて決める。

権威と人気をそれぞれ縦横軸にとって散布図を描くことで、ピエール・ブルデューが概念として描いたような文学野の勢力図を量的データに基づいて作成できる。

人気があって権威がない作家(ジャンル小説家など)、権威があって人気がない作家(ルソーやヴォルテールなど外国の作家)、両方ある作家(ウォルター・スコット、デフォー、フィールディングなど)というように分かれる。

 

次に、情報理論を援用して、語の予測可能性=冗長性を測る。正典は語の組み合わせという観点からはアーカイブよりも多様な言語を使っているが、タイプ―トークン比(Type-Token Ratio)による単語の多様さという観点ではアーカイブのほうが上と、測り方によって異なる結果が出た。

タイプ―トークン比が低い部分を調べると、トラウマが襲ってくる場面、語りの重要な場所、激しさ、口語性といった特徴を持つことがわかる。

一般に話し言葉と書き言葉では書き言葉のほうがタイプ―トークン比が高く使用する単語が多様である。アーカイブのほうがタイプ―トークン比が高いのは、アーカイブのほうが書き言葉的だから。それは会話が少ないのではなく、会話も書き言葉的に書かれているから。言語的保守主義のため。また、小説的でない他のジャンルの要素が入っていると(例えば政治的議論など)タイプ―トークン比は高くなる。

 

ミハイル・バフチンドストエフスキーの作品を題材にポリフォニー(多声的)と異種混淆という概念を説いた。彼の議論ではこの二つは近いものとされていたが、実際には正典はポリフォニー的であり、アーカイブは異種混淆的であり対立している。アーカイブに異種混淆が多いのは、19世紀に小説は純化していったので、小説に他のジャンルが交じることは減っていき、それについていけなかった作品だから忘れられたのではないか。