The Life Cycles of Genres

今回から、一旦Stanford Literary Labから離れて、https://culturalanalytics.org/の論文を紹介していきます。

今日の論文はこちら

https://culturalanalytics.org/2016/05/the-life-cycles-of-genres/

 

ジャンルの概念は難しい

フランコモレッティはジャンルの寿命は25年と主張した。

しかし、普通に考えるとミステリとかはジャンルの寿命100年以上ある。

ジャンルは単一の定義をすることはできない。どのジャンルに入るか不明確な作品もあるし、サブジャンルの問題などもある。

この論文では使われている単語の類似性でジャンルを識別し、その識別可能性の高さによって、ある作品がそのジャンルらしい作品であるとか、ジャンルが歴史を通してその類似性を保っているかなどを論じている。

 

まず探偵小説。

探偵小説の開祖であるポーの作品は、すでに充分に探偵小説らしい特徴を持っていて、むしろその少し後の作品のほうが探偵小説らしくない。

20世紀に入ると、探偵小説は識別可能性が高く、つまりより探偵小説らしくなっていく。

探偵小説は160年(1829年から1989年)にわたって、用いられている単語に探偵小説らしさを保ち続けていることがデータからわかる。

探偵小説の特徴後として、“Police," "murder," "investigation," "crime," "Suspicion," "evidence," "prove," "theory," "coincidence"などがある。

"door," "room," "window," "desk" などの部屋に関する語彙も、探偵小説の特徴である。逆に、子供や教育に関する単語は入っていると探偵小説である確率が下がる。

 

次にゴシック。

これもどう定義するか難しい、ホラーなども定義によって含んだり含まなかったりする。

データ分析の結果として、探偵小説よりも識別が難しいということがわかった。

すなわちゴシック小説は歴史を通した共通点が少ない

 

ジャンルを識別するにあたって、25年とか短いスパンの作品群のほうが一貫性があるのは当然だが、探偵小説は150年スパンで一貫性があり、モレッティのジャンル25年寿命説への反証となっている。

 

しかし、探偵小説くらい100年以上の長期に渡って語彙の一貫性を保っているジャンルは他にない。

 

SFの語彙による分類は困難がある。初期のSFの未来像と今のものは全く違う。『ニューロマンサー』と『フランケンシュタイン』が違うように。

SFというジャンルは探偵小説ほど識別しやすくないが、ゴシックよりは見分けやすく、100年以上の長いスパンでジャンルとしての一貫性を持っている。

SFは大きさや多数を表す"vast,""far," "larger,"”thousands”などの語を多く使用するという特徴がある。他にも、”earth,””human,””creatures,””its”などが多い。

 

SFの歴史において、1920年代以降にSF雑誌などの影響でジャンルが確立されたと言われることが多い。そうだとしたら、このデータ分析では、1920年代以降の作品はそれ以前と比べて識別性が上がるはずだが、特にそういう現象は観測されなかった。これはSFの歴史観への反論になるかもしれない。

 

結論として、一口にジャンルと言っても、存続する期間も違うし、ジャンルとしてのまとまりの強さも違う。データ分析によってそれぞれのジャンルの固有性を量的に比較することができるのである。