Loudness in the Novel

今回も同じくパンフレットから7番。

この論文では、小説における声のうるささ(loudness)という概念を取り扱っている。

まず対象の小説コーパスから会話を表す動詞が用いられている文章を抽出し、使われている会話動詞によって文を静か・中立・うるさいの3種類に分類する。たとえば”shout”はうるさい、”said”は中立、”whisper”は静かとなる。

静かな文・中立の文・うるさい文のそれぞれに含まれている確率が高い語を調べると、うるさい文には、”!”, ”―”, ”oh”, ”god”, ”heaven”, ”how”, ”yet”などが多く含まれていたり、中立の文には助動詞が多いといった違いが統計的に現れた。

また、文のうるささは単語の選択だけではなく、構文にも関わってくる。例えば、うるさい文の構文として、動詞の命令形+”me”という形や、”What”, “Why”などを使った感嘆文や反語表現、同じ語の繰り返し、そして説明する語(形容詞)などが少ないといった特徴が見られた。

 

うるささを一文だけではなく小説のプロットにおいて見ることもできる。小説を一定の長さの部分に区切り、それぞれの部分に含まれる文のうるささを計算してグラフにすることにより、小説全体の構造としてうるささがどのように推移しているかがわかる。たとえばドストエフスキー『白痴』を対象にしてみると、盛り上がる部分でうるささが急上昇しており、動詞の使い分けが行われていることがわかる。キャラごとのうるささを測定することもできて、主人公のムイシュキンはうるさくなく、他のキャラクターがうるささを担っているといったことがわかる。小説が持つリズムについても考察することができる。

 

うるささの歴史的変化についての分析。19世紀英語小説のうるささの変化を調べると、時間が経つにつれてうるさい会話動詞が減少し、最も中立な会話動詞である”said”が圧倒的に増えていることがわかる。この現象の解釈は色々考えられるが、その一つとして小説が社会化したからという説明がある。また、うるさい会話動詞を使う代わりに、仮説として、自由間接話法が激しい言葉の役割を担うようになったのではないか。

 

このように、うるささという概念で、文法的な分析、語りの構造的な分析、そして歴史的・文化的な分析も可能である。

 

うるささの分析というのを日本語で真似てみたい。